2巻「緋の残影」

結跏趺坐

霊査をする綾子や、3巻で阿字観(数息観)を行なう高耶が取った姿勢。
真言を唱えるときにとる場合もある。

【解説】
坐法の一つ。〈趺〉は足の甲、〈結跏〉は趺を交わらせ、反対の足の腿のうえに乗せることをいう。
足を結んだような形。左右の足の上下で意味が異なり、右足で左足を圧する形は悟りを開いたものの坐で〈吉祥坐〉といい、その反対の形は、修行中のものの坐で〈降魔坐〉という。



3巻「硝子の子守歌」

真言宗

橘家の「光厳寺」や国領の「慈光寺」が所属する宗派。

【解説】
日本八宗の一つ。宗祖は空海。中国の密教の系統を引いて空海が初めて組織化して独立宗派とした。教主は法身大日如来。


護摩壇

初出3巻p66。高耶が《力》の能力開発を受けるときに、この前に座らされた。
その他修法を行なうときなど、色々な場面ででている。

【解説】
護摩法を修する壇でもとは土壇であるが、日本では木壇を用いる。方形の箱壇か牙壇で、中央に護摩炉を置き、四隅に四つ、行者の前に鳥居をたてて金剛線を張る。


護摩

【解説】
供物を火に投げ入れて祈願するという意味のサンスクリット語・〈ほーま〉の音写で、古代インドのバラモン教の火の儀式を取り入れ、密教儀礼として内容を整えたもの。
不動明王や愛染明王を本尊とし、その前に儀則に基づく護摩壇を置き、規定の護摩木を焚いて火中に穀物などを投じて供養し、災いを除き(息災)幸福をもたらし(増益)悪魔を屈伏する(降伏)ことを祈願する。
薪を煩悩、火を知恵の表示とし、知恵の火で煩悩の薪を焼き尽くすことを意味している。


観法

初出3巻p67。国領が高耶に教えた《力》開発訓練の方法。

【解説】
心に真理を観じ念ずる方法で、仏教で実践修行のことをいう。


阿字観

初出3巻p68。国領が高耶に教えた《力》能力開発の方法。

【解説】
密教では人生をふくめたあらゆるあらゆる事象を阿字におさめ、あらゆるものがそれ自体において根本的であり本来生滅のないものとするが、この理を観得する宗教的瞑想法(観法)。


大日如来

初出は3巻p68。高耶に瞑想法を教える国領住職のセリフ中。
7巻「覇者の魔鏡中編」で直江が引きちぎった数珠の母珠の本尊。その加護で、高耶の身体を仮死状態で維持した。
9巻「みなぎわの反逆者」で遺髪曼陀羅の主尊。

【解説】
梵語のマハーバイローチャナ(摩訶毘盧遮那)の訳。摩訶は大きい、毘盧遮那は遍く照らすという意で、その智慧が日の光をしのぎ、宇宙の隅々まで少しも残さず照らすことから名付けられた。
仏を太陽にたとえた毘盧舎那仏の思想をさらに発展させ、太陽を中心とした宇宙全体にたとえ、宇宙の根本仏とした仏。宇宙の心理そのものを表すとされる密教の絶対的中心の本尊である。(それなので、真言宗である直江の実家の寺の本尊であり、彼が持っていた数珠の本尊でもあるのだろう。)
密教で大日如来は、宇宙の実相を法身として捉えたものとする。つまり、大日如来は、仏法そのものがこの世に現れた姿で、宇宙の法則そのものであり、すべての諸仏諸菩薩は大日如来の化身で、すべての働きもこの如来の徳の現れだとする。仏法を説いた釈迦自身もこの世を教化するために現れた大日如来の姿の一つであるという。
大日如来には胎蔵界と金剛界の2つの宇宙世界がある。胎蔵界とは、母親が体内に子を宿してこれを保護し育成するように、我々の身体の中には仏陀の徳を宿しており、これを持ちこたえ育てていくのにたとえたもので、悟りの境地を表す法界定印を結ぶ形を取る。金剛界とは、金剛は、金剛杵というダイヤモンドのように鋭い古代インドの武器のことで、仏陀の智慧の力もこのように堅固であって、一切の煩悩を打ち破る力のあることにたとえているもので、智拳印を結んでいる。これらの徳の現れ方を図で示したのが、曼陀羅(→曼茶羅)と呼ばれるもので、それぞれ胎蔵界曼陀羅、金剛界曼陀羅と呼ばれる。
【形像】
大日如来は他の如来と違い、諸仏の王として表現するために宝冠を頂き、胸飾り、臂釧、椀釧などの飾りを付けている。(本来、如来は悟りを開いたものとして、身に飾りは纏っていない)
菩薩に似た姿だが見分けるポイントは智拳印を結んだ手印である。

真言
金剛界
オンバザラダトバン
【訳】
オーム、金剛界よ、ヴァム尊(大日)よ。

胎蔵界
オンアビラウンケン

種字

【金剛界】
ばん

【胎蔵界】
あーく



智拳印。
左右の手はそれぞれ拳にし、左の人差し指を伸ばし、右の拳を以てこれを握り胸の前に当てる。


大日経

【解説】
唐の善無畏訳。7巻。チベット語訳もある。真言三部経の一。7巻のうち前の6巻は住心品より嘱累品にいたる31品、のちの1巻は供養法に関するもので5品にわかれている。また31品のうち第一品は主として教相、第二品以下は事相についてのべられている。註訳書には一行の記した疏20巻、空海の開題1巻、円仁の心目などがあり、さらにチベット大蔵経タンジェルの中には大量の註訳書がおさめられている。


オン バザラギニ ハラチハタヤ ソワカ(被甲護身)

初出3巻p90。倒壊事件の現場に向かおうとする高耶に国領が唱えた真言。

【解説】
護身法の一つ。密教で真言行者が修法の初めに、障りを除き心身を清らかにし、修する法を成就させるために心身を加持することをいう。
被甲とは、如来の大慈悲の甲冑を身につけ、守ることを意味している。仏の加護により堅固な見えない精神の鎧を身に付け、あらゆる邪気から修業者を守る。
【訳】
帰命致します。私に金剛のような堅固に生き抜く智慧の火が生じ、一切の煩悩にうち勝つことが出来ますように。
【印】
被甲護身
二小指と二薬指を内に相交え、二中指を真っすぐ立てて指の先をあわせ、人差し指を鉤の形にして中指の背につける。親指は並び立てる。薬指は捻る。


独鈷

初出3巻p93。東北大学農学部の建物倒壊現場に現れた女が持っていた密教法具。
13巻「黄泉への風穴」では夜魔道を通さないために三浦義意が岩屋に埋めようとした。

【解説】
金剛杵の基本形で五種杵の一。杵の形をして両端に鋭い刃を付けたもの。元来は武器であったが象徴化されて悩みを破り仏性を表す法具になった。


オン サラバタタァギャタ ハンナ マンナナウ キャロミ

初出3巻p93。東北大学農学部の建物倒壊現場に現れた女が唱えた普礼の真言。
4巻「琥珀の流星群」で最上義康達が作った結界点を浄地するために、地鎮法を行う際、直江が唱えた真言。

【解説】
普礼の真言。諸仏・諸菩薩を礼拝すること。行者が修法を行するときにまず唱える真言で、壇前普礼・着座普礼・本尊普礼など、行法の所々で用いる。
【訳】
一切如来の尊い御足を礼し、帰依致します
【印】
金剛合掌。両手をあわせて十指の頭が、右が左の上になる様に交差させる。


普礼

【解説】
道場で、浄眼を開いて本尊・曼陀羅諸尊・空中に遍満する諸仏諸尊を普く礼拝すること。壇前普礼・着座普礼・本尊普礼などと行法の際に諸処で用いる。


オン ソワハンバ シュダ サラバタラマ ソワハンバ シュドカン

初出3巻p93。東北大学農学部の建物倒壊現場に現れた女が唱えた浄三業の真言。

【解説】
修法の際唱える、護身法真言のひとつ。行者が自己を清め護るため、その三業(身・口・意)を清め、諸仏の加護を求める。
【訳】
帰命し奉る。すべての世界は本性清浄である。我もまたそのように本性清浄である。
【印】
蓮華合掌


浄三業

【解説】
十八契印の中の護身法の一。


オン ダキニ サハハラキャティ サワカ

初出3巻p95。最上義康が孤蠱を操るときに唱えた真言。

【解説】
→茶吉尼天


六道銭

3巻p119。伊達政宗が廟所に入ろうとして持ち合わせがなく、うかつに死ねないと言った言葉に対し、小十朗が答えた言葉。

【解説】
死者を葬るとき棺内に入れる銭で、冥途の六道の巷で使用したり三途の船賃などといわれるが、中国で行なわれた例が仏教の民間風習となったものらしい。


初出3巻p138。最上が建物を倒壊させて作ろうとしたもの。

【解説】
マンダラの意訳。修法に用いる壇を修法壇といい、ここに仏・菩薩などを安置し、また供物や供具をならべる。これに、一定の地を区切って七日作壇法に基づいて土を築いて作る土壇、木で作る木壇、簡単に灑水によってその場所を清めて立てる水壇などがあり、密教で用いる。
主壇である本尊の壇を大壇、護摩を焚くのに用いるのが護摩壇、潅頂に用いるのを潅頂壇という。転じて、授戒の式場を戒壇、仏像を安置するところを仏壇という、(須弥山を象った壇を須弥壇といい、仏像を安置する)。


ダキニ天法

最上が仙台で行なおうとした呪法。

【解説】
辰孤王菩薩を本尊とする密教秘法の一つ。その秘法を修すれば人間の死期を予知し、また人を呪殺することもできるとされる。


茶吉尼天

初出3巻p209。最上の御曹司(by高坂)義康が操るダキニ天法の本尊。

【解説】
インドにおいては、ダーキニーといい、ヒンドゥー教の女神カーリーの侍女だった。
夜叉の類いで人の肝を食う。それを大日如来が大黒天に姿をかえ、降伏させ改心させたという。 6カ月以前に人の死を予知する能力を与えられ、命終を待ってやって来て死体を食べて生きる。この能力から、この天に祈れば寿命を延ばしてもらえるとされる(よって閻魔天の眷属となっている)。
この茶吉尼天は、中国では美しい女人が野干という狐に似た動物に乗った姿として描かれていたが、それが日本では、もともとあった妖狐信仰・狐蠱信仰と結びつき茶吉尼天信仰となったと思われる。
茶吉尼天の呪法はあらゆる呪法の中でもっとも強力な力を持つとされ、ゆえに、茶吉尼天の呪力を独占しようとした支配者たちはこれを邪法とし、自分たち以外の利用を厳しく禁止した。後に真言宗東寺系の高僧等は、この法を王法を守護する法として、天皇が即位するときに修する天皇潅頂の法(輪王潅頂)・金輪の法の中に取り入れ、秘法中の秘法とした。この東寺の鎮守神が稲荷神であったことと、稲荷信仰の使役神(狼など)が結びつき、現在の稲荷信仰が生まれたらく、一般にはお稲荷さんと呼ばれ、豊作・商売繁盛の神として尊拝されている。
【形像】
一般に祭られている茶吉尼天は、3面2臂で天女の姿をして、左手に如意宝珠、または火炎宝珠を載せ、左手に剣を持ち天を飛ぶ白狐の背に乗る。胎蔵界曼陀羅では外院南方の閻魔天の脇に四天衆として侍座する。人血骨肉のごときものを食らう姿で、一つは人間の手足の肉片を持ち、一つは杯(人の頭蓋骨を杯にしたもの)、一つは杯と刃を持つ。残る一鬼は伏臥する。

真言
オン ダキニ サハハラキャティ サワカ
【訳】
おお、食人肉神とその眷族よ(または、人肉を食する強い花よ)畏れ申す。

オン キリ カク ウン ソワカ
【訳】
おお、行垢(仏化を受けざる前の邪行)を除くべし。フーン、めでたし。

ナウマク サンマンダボダナン キリク カク ソワカ
【訳】
普く諸仏に帰命致します。茶吉尼天に帰命し奉る。スーヴァーハー

種字



左掌を以て口に覆い、舌を以てこれに触れ、人血をすする形にする。


功徳力

国領曰く、高耶には景虎によって、すでに備わっているらしい。

【解説】
勝れた結果を招く功能(能力)が善行為に徳として具わっている事をいう。
功徳力は略して功力といわれる。また善行為には宗教的なものと世俗的なものとがあるが、前者は真実功徳と賞し、後者は不実功徳と貶める。


加持力

【解説】仏・菩薩が不可思議な力によって衆生をまもることをいう。またその力。


オン アボギャベイロシャノウ マカボダラ マニハンドマ ジンバラハラバリタヤ ウン

初出3巻p209。最上義康の孤蠱によって襲われた高坂が唱えた真言。この真言によって孤蠱の霊気が薄らいだ。
5.5巻「最愛のあなたへ」で魚津城で鎮霊法を行なうときに高耶が唱えた真言。

【解説】
高坂が万能だと言っているように、たいへん有り難い真言で、この真言を唱えれば、罪障消滅し福楽長寿を得、極楽往生が出来るという。病障、鬼、眼病、毒虫を除いたり、亡者得脱などにも用いられる。
密教で日常唱えられる聖句で、大日如来への祈願を現している。

【訳】オーム、効験空しからざる遍照の大印よ、宝珠と蓮華と光明との徳を有するものよ、転じせしめよ、フーン。


智拳印。左右の手はそれぞれ拳にし、左の人差し指を伸ばし、右の拳を以てこれを握り胸の前に当てる。





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